私の博士論文の指導教員から、拙著の推薦文が届きました!

ポスト青年期を生きる高学歴独身女性たち

郭麗娟さんのご著書の出版に寄せて

 藤崎宏子(お茶の水女子大学名誉教授)

 郭麗娟さんの初めての単著が晃洋書房から刊行されました。本書は、郭さんが2017年度にお茶の水女子大学で博士学位を授与された論文に、若干の加筆修正をおこなったものです。この博士学位論文の完成まで伴走させてもらった私も、蝶をモチーフとした美しい装丁に包まれた本書を手にし、これまでの様々な出来事を感慨深く思い起こしています。

 郭さんの「ポスト青年期女性」への関心は、彼女の日本での留学生活のなかで育まれたものです。彼女は最初の留学先である島根大学に在学中、親しくなった同年代の日本人女性たちとの交流を通して、日本の社会や文化、家族のあり方、そして日本人の行動特性や価値意識について、共感しながらも時に違和感を抱きつつ体感してきました。やがてその興味関心は社会学の知識や視角と結びつくことで、本格的な研究テーマとして輪郭を表し始めます。その後彼女は、東京に拠点を移すとともに首都圏で暮らす高学歴独身女性を対象とする調査研究にも着手し、豊かな語りデータを蓄積していきました。そして、これらの実証データと社会学理論の接点が見え始め、まさに機が熟した状況のもと、博士学位論文の執筆が始まったのです。

  本書の魅力や面白さは、以下の3点にまとめられます。

 第1に、現代日本の高学歴独身女性たちの職業や家族、将来展望などに関する生き生きとした豊かな語りがちりばめられていること。これは、質的研究では当たり前の要件かもしれませんが、調査協力者の方たちから本音の語りを引き出せた背景には、郭さん自身が同年代の高学歴女性だという共通項をもつとともに、外国人であるがゆえに、日本人の常識の感覚を問う姿勢をもち続けたことで引き出せた面もあったのではないかと思えます。

 第2に、これは本書の研究枠組みの最大の特徴でもありますが、調査協力者の居住地と進学・就職などに伴う地域移動に着目した3つのグループ間の比較をおこない、その共通点と相違点を見出していることです。現代日本の高学歴独身女性という同一特性をもつ人たちであっても、3グループの間には少なからぬ差異があり、この点に着目することによって、個々人のライフコースをより大きな社会的文脈との関連で理解することが可能となりました。

 第3は、郭さんが本書を通して最も問いたかったこと、現代日本の高学歴独身女性にとっての「自立」とは何かについて、一定の解答を得られたことが挙げられます。現代では、女性の個としての自立、とりわけ職業や収入の獲得を通してのその探求が称揚されています。彼女たちが手に入れた「高学歴」は、そのための有利な前提条件になり得るでしょう。しかし、調査協力者のなかにはこうしたゴールに到達できた人がいる反面、様々な障壁にぶつかりもがき葛藤する人もいました。こうした差異を居住地と地域移動の3グループの差異として、また現代日本のジェンダー規範とその内面化の様相の差異として考察することにより、彼女たちのライフコースと自立意識の多様性の一端を描き出すことができました。

 郭さんは今、本書の成果を跳躍台としながら、新たな研究構想のもとに次なる研究に取り組んでいます。それは、現代中国の高学歴独身女性の職業、家族、将来展望などに関する質的研究です。日本社会の女性のライフコースを地域差という視角から考察してきた経験は、中国と日本のポスト青年期女性の国際比較というより大きな研究構想にも活かすことができることでしょう。郭麗娟さんの今後さらなる研究展開を期待しています。

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